【リプレイ風小説 第3話 ウラワザ】

 

ACT.7 分裂


 「いい?開けるよ、1、2の3!」
掛け声をかけて、スニークは3つ目の石棺の蓋を開けた。同時に蓋の裏の紋章が光を放った。
「あれ?空っぽだよ」
スニークが言うとおり、石棺の中はがらんとして何も入っていなかった。
「危ない!後ろ!」
束の間の沈黙の後、アインが叫んだ。その声と同時にミイラの爪がパラレルの背中を引き裂いた。
「いつの間に!」
激痛に呻きながらもパラレルは身を翻して距離をとり、振り向きざまに矢を放った。矢はミイラの左手を貫通して石造りの壁に突き刺さり、ミイラを壁に磔にした。そこへサイのメテオシャワーが炸裂した。
メテオの閃光の中ドーンが素早くミイラとの距離を詰め、氷の一撃でとどめを刺した。
「この狭いところでメテオとは、無茶しやがる」
ドーンはフンと鼻を鳴らして言った。
「あいや、申し訳ござらん、咄嗟の判断でして」
「いいじゃない、それで助かったんだから」
「手こずる相手じゃなかった」
ドーンはまたフンと鼻を鳴らした。
「だが、不意を突かれた。違うか?」
RRの言葉にドーンは何も答えなかった。
「今のも紋章ですか?」
『アースヒール』の呪文でパラレルの傷を癒し終えると、アインはサイに聞いた。
「左様。『召喚の紋章』、文字通りモンスターを召喚する紋章ですな」
「なるほど、棺桶の中が空っぽと見せかけて、後ろから襲うってハラか」
「これからは、後ろも気をつけなきゃってことですね」
神妙な面持ちでアインが言った。
「兎に角、これで右側のブロックは探索し終わったわけですから、一旦『番人』がいたところまで戻って、左側の探索をしましょう」
一同は来た道を戻ると、今度は左側へと続く廊下を進んで行った。
廊下を進んで行くと右手にすぐ、4つ目の小部屋の入り口がぽっかり口を開けていた。例によって扉はなかった。
「スニークさん、入り口のトラップの解除をお願いします」
「いや、トラップはないよ。でも、いるよ」
言葉どおり、部屋の入り口を入ったすぐのところに巨大なサソリが居座っていた。そして、その奥に石造りの棺桶が横たわっているのが見えた。
「こいつを倒さない限り、棺桶は開けられないみたいだね」
「どけ、俺がやる」
言うが早いか、ドーンは杖を振り上げて巨大サソリへと向かって行った。
「ひとりじゃ危険よ。援護するわ」
「好きにしろ」
ドーンは振り向きもせずにパラレルに言った。
「いいの?支援ちゃん。チリのアニキ、随分と熱くなってるんじゃない?」
「拙者が余計な手出しをしたばっかりに。申し訳ござらん」
「いえ、いいんですよ。サイさんのせいじゃないです。ああいう人なんですよ。どうせ倒さなきゃいけないんだし、ここはあの2人に任せましょう」
「いいけどさ。この先まだまだごっそりモンスターがいるから、パーティーの力を温存するのは賛成だからね」
「モンスターがいるってわかるんですか?スニークさん」
「だいたいだけどね。オイラぐらいの腕前になると、意識を集中すれば足音でどこにどれくらいの数のモンスターがいるかわかるよ。シーフの特殊技能のひとつだね」
「すごいんですね」
シーフというものを今まで余り知らなかったアインはしきりに感心した。


巨大サソリの尻尾の針が左の肩に突き刺さったが、お構いなしに杖を振り下ろす。命中した辺りから硬い甲羅がパックリと割れて緑色の液体がドロリと流れ出し、鍵爪のついた足がヒクヒクと痙攣する。巨大サソリは、それを最後にその動きを永久に停止した。
「ドーン、怪我の手当てをしてもらわないと」
「自分でやる」
横柄に言い捨てて『アースヒール』の呪文を自分自身に唱える。すると、尻尾の鋭い針で受けた傷口が見る間に塞がっていった。傷がすっかり癒えるや、ドーンは憎しみと苛立ちとを込めて巨大サソリの死体を踏みつけにした。
「チッ、忌々しい」
踏みつける度に甲羅の割れ目から緑色の体液が噴き出した。それでは飽き足らず今度は杖を死体に打ち据えると、硬い甲羅が砕け、破片が緑色した体液と一緒に辺り一面に散らばった。
「やめて!」
モンスターとは言え、死者に対するドーンの酷い仕打ちに、パラレルは憤りを感じた。
「コイツは弱いから死んだんだ。棺桶を守る任務もまっとう出来ずにな。弱い者は強い者に従う。何されたって文句は言えないんだ。それが自然の摂理ってもんさ」
「違うわ!弱肉強食は自然の摂理かも知れないけれど、私もあなたも人間なのよ!」
「違うもんか!甘っちょろいコト言ってるんじゃねーよ」
ドーンは言葉と一緒に唾を吐き出した。
「後生大事に守ってたからって、どうせまた罠なんだろ、俺が確かめてやる」
また、吐き捨てるように言うと、つかつかと石棺に歩み寄って蓋に手をかけた。
「ドーン、待って、何をするの」
「どうせ全部開けなきゃならないんだ!」
パラレルが止めるのも聞かず、ドーンは一気に石棺の蓋を開けた。同時に石棺の蓋の裏に描かれた紋章が発動し光を放った。その瞬間、小部屋の中にいた2人は、目の前が真っ白になり、上も下も前も後ろも分からない不思議な感覚に襲われた。それは『秘密ダンジョン』の入り口に入ったときの感覚に似ていた。
やがて固い地面に足を着いている感覚を取り戻し、目の前に色彩が戻ったとき、2人はそこがさっきいた小部屋ではないことを知った。
造りから見て『秘密ダンジョン』の中には違いない。しかし、そこはどこか別の開けた大きな広場だった。そして決定的な違いは、周りには頼りになる仲間の姿はなく、代わりにモンスターの群れが2人を取り囲んでいた。
「ここはいったい?」
「迷っている場合じゃないらしいぜ、武器を構えな」
戸惑いを見せるパラレルに言うと、ドーンは周りを囲むモンスターを一体一体値踏みするように見回した。
「面白い趣向だな。気に入った」
ドーンは、フンと鼻を鳴らした。

 

 

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