【リプレイ風小説 第3話 ウラワザ】

 

ACT.5 失われた紋章


薄暗い石造りの遺跡の中にアインは立っていた。『秘密ダンジョン』の中はさっきまでいた『小さい傭兵の墓』よりも空気が淀んでいる。この世の理を無視して永久に燃え続けるかがり火が『秘密ダンジョン』の中を照らしていた。
アインはいつもの『秘密酔い』による軽いめまいを感じていた。何度来ても慣れない。おそらくこれから先も『秘密ダンジョン』に来る度に、このめまいを感じることだろう。
そんな思いにふけっている間に、仲間の冒険者達が次々と出現した。
いけない、まごまごしている場合ではない。今回は自分がリーダーなのだ。パーティーのリーダーとして、今のうちに『番人』と話をしておかなければ。頭をひと振りして意識をはっきりさせると『秘密ダンジョン』の『番人』の方へと向かった。


「ゴンちゃん、なんか嬉しそうだね」
フラウがネクロマンサーのゴーンに向かって言った。
「ここは秘密のお墓だーよ。おら、お墓に来るとワクワクするだーよ」
「そうなんだ。変わってる〜」
そりゃ、ネクロマンサーなんだから当たり前だろうと誰もが思ったが、突っ込む者はひとりもいなかった。そこへ『番人』との話を終えたアインが戻ってきた。
「サイさんの言うとおり、この『秘密ダンジョン』のどこかに古文書があるそうです」
「やはりそうでしたか」
サイが右の拳で左の掌をポンと叩いた。
「古文書は『秘密ダンジョン』の中のあちこちに置かれた箱のどれかに入っているそうです。それを見つけて『番人』に渡すように言われました」
「なんですと!では、古文書を読むことは叶わぬと?」
「残念ながらそうですね」
アインは申し訳なさそうに言った。
「ちょっとぐらい中身を拝見するわけにはいきませんかな?」
「ダメらしいです。古文書はすぐにしかるべき方法で保管しないと、崩れて無くなってしまうそうです」
「左様ですか」
サイはガックリと肩を落とした。
「まぁまぁ、その古文書とやらだけが謎を解く手掛かりってワケじゃないんでしょ?ござるのダンナ」
「それはそうでござるが」
「ひょっとしたら、この『秘密ダンジョン』の中には、古文書の他にも手掛かりがあるかも知れないよ、ダンナ」
「そうですな。シーフ殿の言うとおりですな」
スニークの言葉に、サイは無理矢理納得したようであった。
「そうと決まれば、古文書探しを始めますか!」
「その前に、みなさんに『支援』をかけます」
アインは杖を振って『ヘイスト』と『ファイヤーエンチャント』の呪文を仲間たちに順にかけていった。
『秘密ダンジョン』は『番人』がいるところから、左右に石造りの通路が続いていた。一行はまず右の通路から探索を始めることにした。シーフのスニークを先頭にして、パーティーはそろりそろりと進んで行った。
右に進むと通路はすぐに左に折れていた。角を曲がってなおも通路は先へと続いていたが、曲がったすぐの右手に、扉のない入り口がぽっかりと空いていた。先頭のスニークがそこから中を覗き込んだ。
「部屋だね。小さな部屋だ。奥に大きな箱みたいなのがあるよ。見たところトラップはないけど、中に入る?」
「勿論です」
「了解。狭いから全員が入っちゃうと何かあったときに身動きとれなくなっちゃうよ、支援ちゃん」
「そんなに狭いんですか?」
「うん。動き回ることを考えると、中に入るのは3人ぐらいにしておいた方がいいね」
「そうですか」
アインは、暫くの間考えた。
「では、自分とスニークさん、ドーンさんの3人で入りましょう。あとの皆さんは入り口で待機していて下さい」
「オッケー」
5人(と2体)を残しスニークを先頭にして3人は警戒しながら中へと入って行った。
入って見ると、大きな箱と思ったのは死者を安置するための石造りの棺桶であった。
「支援ちゃん、さっき古文書が入っているのは、箱って言ってたよね?」
「箱って言いましたよ」
「これって、どう見ても棺桶だよね?」
「石棺ですね」
「じゃぁ、これは開けなくていいよね?」
「開けて下さい」
「箱じゃないのに?」
「開けて下さい」
「お化け出るかもよ?」
「そんなの怖がってたら、冒険者なんか務まりません」
スニークはうらめしそうに棺桶とアインを交互に見た。
「トラップでもあるんですか?」
「いや、オイラが見る限りないけど」
「だったら開けて下さい」
アインはきっぱりと言った。仕方なく、スニークは冷たい石棺の蓋に手をかけた。
「じゃ、1、2の3で開けるよ。お化け出ても知らないからね!」
「お願いします」
「いい?1、2の3!」
掛け声と共にスニークは重い石棺の蓋を開けた。と同時に、石棺の蓋の裏が光って、部屋の中にいた3人の全身に激痛が走った。たまらず3人は3様の声を上げた。
「いかがなされた?支援殿」
「トラップです!」
「ちげーよ!トラップは無かったもん。別のなんかだよ」
「はて、別の何かですと?」
サイは首を捻った。
「そんなこと言ってる場合じゃないみたいだぜ。棺桶を見てみな」
見ると石棺の中から包帯のような布で全身をぐるぐる巻きにしたミイラがのそりと起き上がるところであった。ドーンの言葉どおり考えている場合ではなかった。
「やっぱ出たよ!」
「どけ!俺がやる」
スニークを押しのけて、ドーンはミイラの前に立ちはだかると、素早く杖を振り下ろした。氷の魔術『チリングタッチ』がミイラの全身を凍えさせ、杖に宿った火の魔力が、命中した部分を黒く焦がした。その氷と炎のデュエットを高速で何度もお見舞いする。石棺の中からゆっくりと立ち上がったミイラはその緩慢な動きゆえ、一度も反撃することなしに、ドサリと前のめりに倒れた。
「すげーや、チリのアニキ」
ドーンはフンと鼻を鳴らした。
「トラップを見逃してたんじゃ、シーフを連れて来た意味はないな」
「違うってば、本当にトラップは無かったんだってば」
スニークは必死に反論した。
「ちょっと失礼して拝見させて貰いますかな」
そう言ってサイは、2人の間に割って入ると、しゃがみ込んで石棺を調べ始めた。
「ほほう、成る程。実に面白い。いや、実に興味深い」
「どうしたんです?サイさん。何か見つけたんですか?」
アインが後ろから覗き込んで聞いた。
「この石棺の蓋をご覧なさい。裏側に模様が刻まれていますな」
「ええ、ありますね」
確かに蓋の裏側には丸い円が描かれ、その中にびっしりと見たことも無い絵文字が規則正しく刻まれていた。計算されて精密に描かれた模様のようだった。
「この模様がどうかしたんですか」
「これは『苦痛の紋章』ですな」
「『苦痛の紋章』?」
「左様。ある一定の条件を満たした者にダメージを与える、魔法の紋章に間違いござらん。遥か昔に失われた『紋章学』の産物ですな」
「失われた『紋章学』ですか」
「皆さんもご存知のところですと、紋章の大掛かりなものが魔方陣にあたりますな」
「魔方陣なら見たことがあります。確かアリアンの地下遺跡にもありますね」
「もっとも、現存する魔方陣でまともに動作するものは数えるほどしかありませんが、魔法の紋章で完全に機能するものは、拙者、始めて見たでござる。実に興味深い」
サイはしきりに関心した。
「どうやらこの紋章は石棺の蓋を開けると魔法が発動するようですな」
「こいつがまだ他にもあるとなるとやっかいだな」
RRが言った。
「そうですな。紋章はシーフ殿のトラップ探知の能力では見つけることができませんからな。解除など出来るはずもござらん。そもそもトラップですらないのですから」

 

 

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