【リプレイ風小説 第3話 ウラワザ】

 

ACT.2 狂乱の魔術師


「テンツクは正面から引き付けて、ドンツクは右に回りこんで!」
フラウは自分が使役する2体の魔獣『ファミリア』に向かって叫ぶと、笛を奏でた。どこか物悲しげな印象を受ける短調の調べが響く。
「ウギャッ!」
「ウグゥアッ!」
返事をするように声を上げると2体の魔獣は少女の指示通り、1体は不死の怪物『アライブコープス』の正面に立ってその攻撃を受け止め、もう1体は右側から槍を繰り出して何度も突き刺した。
テンツクが引き付けてる横で、左側からはゴーンが妖しげなネクロマンサーの呪術を不死の怪物にかけていた。それからおもむろにソードを取り出すと不器用な手つきで斬りつけた。ぎこちない手つきではあったが、しかし、ゴーンのソードは確実にアライブコープスを捉えていた。呪術の効果が出ているらしい。
2体のファミリアと、ゴーンの執拗な攻撃により、やがて不死の怪物は断末魔の声を上げてバッタリと倒れた。偽りの生から解き放たれると、大抵の不死の怪物がそうであるように、その肉体を土へと帰した。
「やったね、ゴンちゃん!」
「やっただーよ!」
テイマとネクロマンサーとが右手でハイタッチした。
「ウキャッ!」
「ウギャヮ!」
ファミリア達も槍を振り上げて喜んだ。その様をドーンは冷ややかに見つめていた。フンと鼻を鳴らす。
「全く飽きもせずによくやる。仕留めたのは今ので何体目だ?」
「10体目だよ」
フラウはにこにこ顔でドーンに答えた。
「日々の鍛錬も大事だけれど、休むことも必要なのよ、フラウ」
「だってねパラレルさん。テンツクも、ドンツクもじっとしているの苦手なんだもん」
「ウキャッ!ウキャッ!」
「ウギャウギャ!」
パラレルはクスリと笑った。
「元気なのね」
「ああ、全くだ。『秘密ダンジョン』の中でもその調子でお願いしたいもんだな」
「うん!そのつもりだよ」
フラウの屈託のない返答に、ドーンはまたフンと鼻を鳴らした。
「それにしても、アインもRRも募集に手間取ってるようね」
「そうだな」
「遅いねー」
「待ちくたびれただーよ。狩りでもしてないと退屈だーよ」
一体どれくらいの時間、ここで4人(と2体)は待ちぼうけをくらっていることだろうか。オアシス都市アリアンの東、ガディウス大砂漠の中にある遺跡『小さい傭兵の墓』の地下2階。ここに4人の冒険者が集まってから丸1日が過ぎていた。
氷の魔法『チリングタッチ』を得意とするウィザード・ドーン、華麗なる弓使いのパラレル、2体の魔獣・ファミリアを使役するビーストテイマーのフラウ、呪術を得意とするネクロマンサーのゴーンの4人の冒険者。これに加え、ウィザードの最終魔法『メテオシャワー』の使い手RRと、このパーティーのリーダーである『支援』のアイン。そしてもうひとりのメテオ使いサイ。この3人のウィザードを加えて、メンバーは既に7人。パーティーはほぼ完成されていた。あとひとり、パーティーに不可欠な役割を担う、もうひとりのメンバーを除いて。
唐突に、ひとりのウィザードが4人の目の前に出現した。
「おっと、リーダー殿のご帰還だ」
ドーンが鼻を鳴らして言った。
「どうだったの?アイン。ビショップは見つかった?」
「その顔はダメだったみたいだな。支援」
「ええ」
アインは頷いた。
「アリアンで随分と『叫んだ』んですけど、いくら募集してもビショップからの『耳(コンタクト)』はありませんでした」
「そうか」
「あとは、古都に『跳』んだ、RRさんに期待するだけです」
「そうね」
5人が一瞬しんとなったところへ丁度、RRが『跳』んで来た。
「ひとり足りないようだな」
RRはぐるりと5人を見回して言った。
「サイさんです」
「そうか。サイは歩いてくるんだったな」
「ええ。でも、アリアンからじゃなくて近くの『魔法傭兵の墓』からだから、ちょっと遅いですね」
「まあ、あの変わり者のことなら心配いらないだろう」
「そうですね。それより古都の方はどうでした?RRさん。ビショップは見つかりましたか?」
「いや、だめだ」
RRは首を振った。
「アリアンもだめだったのか?支援君」
「ええ。ダメでした」
アインもまた同じように首を横に振った。
「やっぱり『ビスリンピック』のせいで、ビショップはみんな神聖都市アウグストに行ってるみたいです。アリアンにはひとりもビショップはいませんでした」
「古都も似たようなもんだ」
「『ビスリンピック』ってなんですか?」
フラウが2人に割り込んで聞いた。
「4年に1度、全てのビショップが神聖都市アウグストに集まって開く、ビショップの競技会なんです」
「ふーん」
「今は、丁度その『ビスリンピック』の開催期間に当たるんです」
「そうなんだ。でもひとりぐらい、ひねくれ者のビショップさんがいてくれてもいいのにね」
「自分もそう思ってアリアン中探したんですが、ダメでした」
「そっか」
うなだれるアインを見てフラウもシュンとした。そのフラウの様子を見てテンツクとドンツクもなんとなくシュンとした。
「全く、ビショップが集まっての競技会なんて、何やるんだ?『ビスリンピック』なんて、『ウィズリンピック』の猿真似じゃねーか」
ドーンが苛立たしげに言った。
「へー、『ウィズリンピック』なんてのもあるんだ」
「ある!」
ドーン、アイン、RRの3人が同時に叫んだ。なんとなく言った自分の言葉に、3人のウィザードが一斉に反応したのに、フラウは目を丸くした。
「それにしても困りましたね。あとひとりが決まらないとは」
アインは肩を落とした。
「考えがあるんだが、もうひとりのメンバーは、自分に任せてくれないか?支援君」
「誰か心当たりでもあるんですか?RRさん」
「あるにはある」
その言葉に、アインの表情がいっぺんに明るくなった。
「是非、お願いします」
「承知した。もうしばらく待っていてくれ」
そう言うと、メテオ使いのウィザードはどこかへと『跳』んで行った。それを見送ってアインは安堵のため息をついた。良かった、これでようやく『秘密ダンジョン』への冒険が始められる。
「おい、支援。いいのか?あいつに任せて」
「何か不都合でもあります?ドーンさん」
「あいつのせいで、廃坑で俺たちがどんな目にあったか忘れたのか?」
RRがリーダーであった廃坑の『秘密ダンジョン』への探索行。そのときのパーティーのメンバーは全員がウィザードであった。それは偶然ではなくRRが意図的に集めたものだった。偏った編成での探索行は有意義ではあったが、その分、危険も多かった。アインもドーンもそのときのメンバーだったのだ。
「あの廃坑以来、あいつが冒険者の間でなんて呼ばれてるか知ってるだろ?」
「知ってます。『狂乱の魔術師』でしょ」
確かに、ウィザードだけで『秘密ダンジョン』の攻略を試みるなどという発想は、まっとうな冒険者ならば思いつかない、狂気の発想だった。無責任なうわさ話の中で『狂乱の魔術師』の名は、古都ブルネンショティングを中心に冒険者の間へと広まっていた。
「でも今回は状況が違います。RRさんはきっとビショップを連れてきてくれますよ」
「だといいんだがな」
ドーンはフンと鼻を鳴らした。
一抹の不安がアインの脳裏をよぎった。

 

 

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