【リプレイ風小説 第2話 0.375】

 

ACT.8 切り札


ビリビリとした振動が地面を伝い空気を震わせる。『クリーパー』が発する衝撃波の予兆だ。この地鳴りに続いて、耐え難い痛みが全身を襲って来る。
回避する術はない。耐えて生き残るより他、方法はない。今のパラレルの体力では、まず、耐えられない。
「南無三!」
『クリーパー』の衝撃波が心臓を鷲づかみにする直前、スニークがパラレルの胸を鷲づかみにした。
「○△※×■◎#!」
パラレルは言語にならない叫び声を上げた。衝撃波が襲ってくるのと同時だった。
耐え難い痛みに耐えきったとき、パラレルは肘打ち、金的、平手打ちの三段コンボをスニークにお見舞いした。その後、やっと人間の言葉を発した。
「ドサクサに紛れて何するの!」
「違うって、アネさん!シーフの技だってば!」
スニークはうずくまりながら答えた。
「なんですって?」
「『ファーストエイド』って、応急処置の技だって」
「嘘じゃないでしょうね?」
パラレルは、疑りの目を向けた。
「ホント、ホント。あのまんまだとアネさん『死』んでたんだから。間一髪だったんだってば!」
スニークの言うとおり、あのときの体力では衝撃波には耐え切ることはできなかっただろう。だが、今、こうして生き延びている。
それが、スニークの言葉が正しい証明であった。
「礼は言わないわよ!」
そうひとこと背中で言うと、パラレルは『クリーパー』に向かって行こうとした。が、思い直すように立ち止まった。
「ひとつ聞いておきたいんだけど」
「ナニさ、アネさん」
「さっきの『ファーストエイド』とかいうシーフの技、あの技を使うには胸じゃないとかけられないの?」
「いんや、尻でもかけられるよ」
パラレルの背中がワナワナと小刻みに震えた。
「この、えろシフ!」
パラレルは、今は怒りを槍に込め『クリーパー』にぶつけることにした。

言葉どおりであった。
得意ではないと言ったとおり、パラレルの槍さばきは弓を操るそれに比べてぎこちないものであった。
全ての攻撃が浅く、致命の一撃を与えるには至らなかった。
3人は焦った、このまま戦いが長引けば長引くほど不利だ、
やっとの思いで衝撃波を耐えしのいではいるが、いつアクシデントが発生し『死』んでしまうかわからなかった。『死』と隣あわせの時間をなるべく短く押さえたかった。
しかし、焦れば焦るほど、結果はついてこない。
「頭だってば、アネさん!頭を狙って!」
「やっている!」
頭を狙って繰り出す槍は、ぬめつく表面を滑っていた。
『クリーパー』が大きく口を開いた瞬間、口の中に槍を突き刺すことが出来れば、致命打を与えられるに違いないが、今のパラレルの技術では、それは宝くじに当たるようなものだった。
「もちっとゆっくり動いてくれりゃ、仕留められるのに」
「何?」
スニークが思わず言った愚痴をRRは聞き逃さなかった。
「『クリーパー』がもっとゆっくり動いてくれりゃ、仕留められるのにって・・・」
「それだ!」
地鳴りがする中、またもや襲ってくる衝撃波に備えて『ヒーリングポーション』を飲み干しながら、RRは一筋の光明を見つけた。
耐え難い痛みに耐えるのもこれを最後にしてやる。
衝撃波がおさまると、RRが叫んだ。
「コソドロ!テイマに貰った短剣を使え!」
「無理だよ、アニキ!あの短剣はおいらの腕じゃ使えないよ!」
「いいから、短剣を『クリーパー』に投げるんだ!」
スニークは、渋々短剣を取り出して構えた。フラウに貰ったときはしっくりしなかった短剣が、今は手に馴染んだ。
「WIZのアニキ!なんかイイ感じだわ!」
「いいかコソドロ、絶対に当てろ!」
「ガッテン!」
スニークは短剣を持つ指先に集中した。第6感を働かせ、短剣が『クリーパー』に命中するさまをイメージする。
無意識のうちに下唇をきつく噛む。力が入り過ぎてじんわりと血が滲んだ。
『クリーパー』の口が大きく開いた瞬間、スニークは全身全霊を短剣に込めて投げた。
短剣は風を切って『クリーパー』目がけて飛んで行き、大きく開いた口の中に吸い込まれるように突き刺ささった。正にイメージどおりだった。
「ビンゴ!」
スニークはパチンと指を鳴らした。
同時に、短剣に込められた水の魔力が発動した。
短剣から発する冷気が一瞬にして『クリーパー』の全身を覆った。表面には霜が降り、凍えた身体はスローモーションのような動きになった。
「今だ、弓使い!」
パラレルは、ゆっくりと閉じようとする口の中目がけて、コボルトの槍を突き刺した。
槍の先が『クリーパー』の頭を貫通する。
口から緑色の体液が大量に吐き出され、パラレルの全身を緑色に染めた。
突き刺さった槍の周りを、触手がうねうねと蠢いていたが、やがてそれも動かなくなった。
 

 

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