【リプレイ風小説 第2話 0.375】

 

ACT.5 サバイバル


 1分も経っていなかった。そのわずかな間に8人と1匹いた仲間は5人になっていた。
「BISのダンナ、『リザレクション』で『生き返らせ』られねぇの?」
「ダメです!いつあの衝撃波が来るかわからないですから」
「ちょっと待て、なんだこの音は?」

バイトは焦っていた。
早く倒さなければ。倒せないにしても、今のうちに少しでも多く『クリーパー』の体力を削っておかなければ。『ヒーリングポーション』の赤い液体を飲む間もおしい。
バイトは休むことなく何度も野獣の爪を繰り出す。ふさふさしたしっぽでリズムを取りながら機械のように正確に。
前回の衝撃波にはギリギリ耐えられた。『ヒーリングポーション』で体力を回復したが、次の衝撃波に耐えられるかはわからない。
戦闘の前にシップがかけてくれた『ブレス』のおかげで、耐えているに過ぎないことをバイトは知っていた。

耳障りな甲高い音だった。神経に障る音。音は『クリーパー』から発せられていた。
その音に呼応して黒い染みのようなものが『クリーパー』の周りに浮かび上がった。
黒い染みは水の上に垂らした墨汁のように地面に広がり、『クリーパー』の周りを取り囲んでいた、バイト、ナイトそしてシップの足元にも広がって行った。
黒い染み。それは地面から這い出した無数のワーム(地蟲)であった。
ワームはシップ達の足を這い上がり、わずかに顔の回りだけを残して全身をほぼ覆い尽くしてしまった。
ワームは身体のいたるところに噛み付き、皮膚を食い破り、肉を削いだ。
「うへ!そいつ、やばいんじゃねーの?」
距離をとっていたため、ワームまみれになるのを免れたスニークが叫んだ。
実際、徐々に体力を奪われていた。
「バイトさんとナイトさんは、攻撃の手を止めないで。RRさん『アスヒ』で回復をお願いします!」
そう叫ぶと、シップは自分も回復呪文を唱えた。
ワームの攻撃はいつ止むともなく続いたが、ビショップの『ヒーリング』とウィザードの『アースヒール』が、蝕まれた肉体を丹念に癒していった。
そして、また、地面がビリビリと振動し始めた。
5人は、ベルトポーチから赤い液体の入った小瓶を取り出すと、素早く飲み下した。
『ヒーリングポーション』の刺激が喉を焼く。その直後に心臓を鷲づかみにするような衝撃が襲ってくる。
衝撃波の耐え難い痛みに耐えた抜いたとき、5人いたメンバーはひとり減っていた。
「バイトさんが!」
ナイトが悲痛な声を出した。
バイトが立っていたはずの位置に、ワームの黒い小山が出来ていた。
ふさふさとした自慢のしっぽの先だけがワームの間からのぞいていた。
やがてそれも見えなくなった。
「わあああぁぁぁ!」
突然、ナイトが叫び声をあげた。若い剣士は大声で叫びながら手にしたソードを無茶苦茶に振り回して斬りつけた。その動きは今まで見せていた攻防一体の流れるような動きとは似ても似つかなかった。
「よくも、バイトさんを!みんなを!」
どことなくまだ幼さの残る顔を歪めて無闇にソードを振るう。頬に涙がひと筋流れていた。
「ナイトさん!落ち着いて!」
シップが口に入った蟲を吐き出しながら叫んだ。
「助けますから!みんな必ず助けますから!」
ビショップは必死に叫んだ。
が、激情に憑かれた若い剣士には届かなかった。『クリーパー』の触手の反撃もお構いなしに無茶な攻撃をし続けた。
そして、またもや地鳴りとともに地面が震え始めた。
シップ、スニーク、RRの3人は急いで『ヒーリングポーション』の赤い液体を飲み込んだ。が、しかしナイトだけは地鳴りがする中、ひとりソードを振り回し続けた。
「ナイトさん!早く『ヒーリングポーション』を!」
シップの必死の叫びも我を忘れたナイトの耳には届かない。
「ダメだよ!坊ちゃん聞いてねーよ!」
「死なせません!」
言うとシップは青い色のポーションをひと息で飲んだ。鼻に抜ける刺激と共に頭がクリアになり神経が研ぎ澄まされる。『チャージングポーション』の効果が表れ『心の力』が満ちてくる。
シップが自身が持つ最高の回復呪文『フルヒーリング』を唱えたのと、心臓が鷲づかみにされたのが同時だった。一瞬にして体力が奪われる。滅茶苦茶に振り回されていたソードが沈黙し、ナイトはがっくりと膝をついた。涙の雫が流れた跡を蟲が這いずり回った。顔の上の蟲がその数を序々に増やしていった。
「まだだ!回復を続けろ!」
耐え難い痛みの中、RRは搾り出すように『アースヒール』の呪文を唱えた。
ビショップとウィザードは万にひとつの可能性に賭け、2人がかりで癒しの呪文を唱え続けた。
と、若い剣士は突然ゲホゲホと咳き込んだ。咳をして気管に入った蟲を3匹吐き出し、顔に群がった蟲を二の腕でぬぐった。
「すみません。もう大丈夫です」
そう言うと、ナイトは再び『クリーパー』に向かってソードを振るった。その動きは攻防一体の流れるようないつもの動きに戻っていた。

永遠に続くかと思われたワームの攻撃であったが、時間が経つと幻であったかのように霧散していった。しかし、後に残った『死』んだウルフマンが、それが現実であったことを教えてくれた。
生き残った4人は、地鳴りがする度に喉を焼く『ヒーリングポーション』を飲んでは衝撃波に耐え延びた。何度も耐え忍び、生き延び、そして反撃した。
切れ味の戻ったナイトのソードの一撃をくらう度に『クリーパー』は身をよじり、怒りを示すピンク色を際立たせた。
シップとRRは攻撃よりもサポートに徹し、ナイトが負傷するとすぐさま癒しの呪文を唱えた。
4人の『火力』を失った今、若い剣士のソードが頼みの綱であった。
ナイトの孤軍奮闘が功を奏し、少しずつではあるが『クリーパー』を弱らせていった。
弱ってきたはずであった。
『クリーパー』は突如、素早い動きで踵を返すと、ナイトに体当たりした。咄嗟に盾で受け止めようとしたが、巨体を受け止められるはずもなく、ナイトは数メートル弾き飛ばされて、仲間達と離れ離れになってしまった。
明らかに深手を負ったところに、またも地鳴りが鳴り始めた。
「やばいよ、このタイミング!早く回復しないと!」
スニークが叫んだ。
「だめだ、遠すぎて『アースヒール』が届かない」
「『ヒーリング』も・・・届きません」
衝撃波が4人を襲ったのは、その直後だった。
 

 

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