【リプレイ風小説 第2話 0.375】

 

ACT.4 クリーパー


コボルトは素早い動きで槍を突き刺した。フラウが奏でる笛の音に合わせて、何度も、何度も。突き刺す度に『ファイアーエンチャント』の呪文で火の魔力を帯びた槍は、数十匹の殺人蚊を焼いた。
辺りには髪の毛が燃えた時のような嫌な臭いが立ち込めた。
「ツンツク、もういいよ。ご苦労様」
フラウは笛を吹くのを止めて魔獣に言った。
コボルトは誇らしげに槍を振り上げて喜んだ。
実際、まるで1つの生き物のようであった数百匹の殺人蚊の群れはその数を減らし、今や冒険者の生命に危機を及ぼすような脅威ではなくなっていた。
「今の群れが最後だよ」
偵察から戻って来たスニークが皆に報告した。
「『クリーパー』に気づかれないように、殺人蚊の群れをおびき出すのには苦労したけどさ。WIZのアニキの作戦どおりだね」
「これで余計な邪魔が入ることなく全員で『クリーパー』に対峙できる」
RRの言葉に、全員が息を飲んだ。
「『クリーパー』と対決する前に、RRさん、皆さんに『エンチャ』をかけてください。私も皆さんに『ブレス』をかけます」
そう言うとシップはひとりひとりに呪文を唱えた。体中に聖なる力が宿っていく。
「まだまだ修行が足りないので、そう長くは効果が続かないのですが、聖なる加護が皆さんの体力と攻撃力を少しだけ上げてくれます」
「効果が切れる前に倒しちゃえば問題ないやん」
「そうだな」
『ファイヤーエンチャント』の呪文をかけながらRRが答えた。
「全員に『ブレス』と『エンチャ』が行き渡ったみたいですね。では行きましょう!」
ビショップの掛け声とともに、8人の冒険者と1匹の魔獣は『クリーパー』目がけて駆け出した。

『クリーパー』は洞窟の最深部の開けたところにいた。スニークの報告どおり広場になった真ん中辺りに、クローラーの何倍もあるナマコのような軟体動物が横たわっていた。
先陣を切ってパラレルの矢が『クリーパー』を貫いた。突き刺さったところから緑の体液がどろりと流れ出る。巨大な軟体動物はその体色を白から怒りを表すピンクへと変え、冒険者に向かって怒りの咆哮を上げた。
トミーが助走をつけて頭の上まで振り上げた大剣を思いっきり振り下ろした。ドスンと鈍い音がする。重い大剣はまるでゴムの塊でも叩いたように弾力のある肌に押し返された。刃が当たった箇所がぱっくりと割れていた。
『クリーパー』は痛みにもがき、体色を更に赤いピンク色へと変えていった。
フラウの笛の旋律に合わせてコボルトが槍を突き刺す。頭を狙った槍の先は次第に緑の体液に染まっていった。
「みなさん、頭を狙って下さい!トミーさんはそのままぶったったいて!」
シップが叫んだ。
『クリーパー』は大きな口とその周りの触手で反撃してくるが、ナイトが盾でこれを受け流し、返す刀で切りつけた。
バイトの鋭い爪がゼンマイ仕掛けの機械のように、素早く何度も繰り出され『クリーパー』の皮を引き裂き、肉を削いだ。あっと言う間に両の手が緑色に染まった。
「いける!いけるよ!」
スニークが声をかけた。
もう一度、トミーの大剣が鈍い音を立ててめり込む。これに合わせて『クリーパー』が身をよじった。
更に一撃食らわそうと大剣を振り上げたとき、『クリーパー』は巨体に似合わぬ素早い動きで身を翻し、トミーに体当たりした。大柄な戦士の身体が宙を舞った。トミーは放物線を書いてパラレルの上にドサリと落ちた。
ミシリと音がした。
すぐさまトミーは起き上がったが、軽い脳震盪を起こしたのか、パラレルはふらついて立ち上がることが出来なかった。
その時、洞窟全体がビリビリと振動し始めた。そして、次の瞬間、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を感じた。
「『ヒーリングポーション』を飲め!急いで!」
RRが搾り出すように叫んだ。
先程の衝撃が前奏に過ぎないことを知ったのは次の瞬間だった。

「(さっきのは痛かったな)」
そう思いながらツンツクは目の前のでっかい獲物を槍で突き刺した。頭を潰せばやっつけられることを魔獣の本能が教えてくれた。
「(今度の獲物はでっかいから、きっといっぱい褒めてくれるぞ!)」
古都の周りで往来する人間にちょっかいを出すのも楽しいけれど、こうして人間と並んででっかい獲物をやっつけるのも楽しい。今日は人間なのか獣なのかわからないやつも混じってるけど。
何よりも獲物をしとめたとき、ご主人に褒めてもらうのが一番うれしい。
ツンツクは、早く褒められたくて一生懸命に獲物を突き刺した。
しかし、いつもと何かが違っていた。
いつもなら聞こえるはずの少女の笛の音が、激励の声が聞こえないのだ。
それに、さっきの衝撃で体力をかなりもってかれた。
なんだか不安になってきた。
早く倒さなきゃ。
そのとき、またさっきと同じ地鳴りがした。
耐え難い衝撃波が全身を襲う。
人間達が騒いでいる。
そう言えば、さっき吹っ飛ばされた人間が戻ってこない。
ツンツクは槍をつく手を速めた。
体力はほとんど残っていなかったがとにかく突きまくった。
倒れろ倒れろ!
もう一度衝撃波が襲ったとき、ツンツクには耐える体力は残っていなかった。
ツンツクは地面に倒れこんだ。
持っていた槍がカランと転がった。
地面越しに3人の人間が倒れているのが見える。
吹っ飛ばされた戦士と弓使い、そして笛を握り締めたままの少女が倒れていた。
「(そうか)」
ツンツクは全てを悟った。
「(もう褒めてもらえないんだ)」
  

 

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