【リプレイ風小説 第2話 0.375】

 

ACT.1 トラップ


フラウは駈けていた。
1匹のコボルトを追いかけて、息せき切って走っていた。
「ツンツク!待ちなさい!」
「ギャウワッ」
命令口調ではあったが、少女の叫びには威厳よりも寧ろ悲壮感が漂っていた。
魔獣は主人の声が聞こえないのか、はたまた聞こえているのに無視しているのかわからないが、まっしぐらに獲物に向かって駈けていた。
「待ってよ〜」
フラウの叫びが命令から懇願に変わったとき、少女は何かにつまづいて前のめりに倒れこんだ。あまり反射神経はイイ方ではないらしい。転んだときに額をしこたまぶつけてしまった。
「いった〜い」
フラウは額に手を押し当てて、起き上がろうとした。しかし、それは適わなかった。少女の足はくるぶしまで地面に埋まり抜けなかったのだ。
「ツンツク!」
「ギャワワッ!」
コボルトは、鬼気として大きな犬ほどもあるナマコのような軟体動物・クローラーの一群に、襲い掛かっていった。
「ツンツク!」
「うるせーよ、嬢ちゃん!気が散る!」
少女に答えたのは魔獣ではなく、黒装束に身を固めた男であった。
男は地面に腹ばいになって地表を観察していた。
「まだなの?スニーク」
パラレルは30歩ほど先にいるクローラーに矢を射掛けながら、黒装束の男に聞いた。
「そう急かしなさんなって、アネさん」
スニークは、再び地面を凝視した。
「ここか!」
スニークはダガーを取り出して地面に突き刺し、隠されたトラップの『コア(核)』をえぐった。無意識に下唇を噛む。極限まで集中力が高まったときに出るいつもの癖だ。と、瞬間、青白い炎が地面に広がり、一瞬にして消え去った。フラウの目と鼻の先だった。
少女はおでこを両の手で押さえながら、目を丸くした。
「ビンゴ!」
スニークは指をパチンと鳴らした。
「トラップ解除終了!もう大丈夫」
その声を合図に、トミー、バイト、ナイトの3人がクローラー目がけて、フラウの前を走り抜けて行った。
スニークの言った通りトラップは既になくなっているらしく、何事も起こらなかった。
3人はコボルトを押しのける勢いで、クローラーの一群に襲い掛り、3人3様それぞれのスタイルで巨大ナマコを駆逐していった。
トミーは重い大剣を大きく振りかぶり、力任せに打ち下ろした。怪力の標的となったクローラーの頭が、緑色のゲル状の体液を撒き散らして転がっていく。
バイトもこれに負けてはいない。ふさふさとした自慢のしっぽでリズムをとりながら、機械のような正確な動きで両手の鋭い爪を走らせていった。あっと言う間にクローラーのミンチが出来上がった。
一方、ナイトは攻撃一辺倒の2人とは違っていた。クローラーの攻撃を盾で防ぎつつ隙を見てソードを突き刺す、攻防一体の流れるような動きが身上であった。
「すげー『火力(戦闘力)』じゃん。非戦闘員のおいらとしては、嬉しい限りだね。これなら『クリーパー』もあっという間に倒しちゃうんじゃないの?」
スニークがおどけた調子で言った。
「そう簡単にいけばいいんだがな」
「かてぇなぁ、WIZのアニキは」
RRの真剣な口調に、スニークは肩をすくめて見せた。
「おっと、もう終わっちゃったみたい」
トミーの大剣が、丁度、最後のクローラーの頭をグシャリと潰したところだった。

「嬢ちゃん、俺の前に出ちゃダメだって言ったろ!?WIZのアニキが魔法で止めてくれなかったら、黒こげになってるとこだったんだぜ」
「でも、ツンツクが・・・」
「おいおい、駆け出しとは言え嬢ちゃんはビーストテイマーだろ。笛吹いてペットを従わせなきゃ」
「あ!忘れてた!」
スニークはしばしの間、開いた口をぱくぱくさせた。
「マジかよ!ビーストテイマーって、笛吹いてペットに命令するのが商売じゃねぇの?それを忘れてたって!?」
「ごめんなさい」
少女は涙目になっていた。それが厳しい言葉で追求されたせいなのか、赤くなってうっすらと血が滲んだ額のせいなのかはわからなかった。
「もうその辺でいいでしょう。大事には至らなかったんだし」
見かねてシップが助け舟を出した。
「BISのダンナは、甘ぇからなぁ」
「まぁ、そう言わないで。パーティーの仲間なんだから、仲良くしましょう」
「ビショップの博愛主義にはついて行けねぇや」
まだぶつぶつと言っているスニークを尻目に、シップはビーストテイマーの少女の額に手をかざした。精神を集中し『心の力』を手のひらに集める。すると手のひらがぼうっと明るくなった。柔らかな光を受けると少女の赤くなった額は何事もなかったようにすっかりと元通りになってしまった。
「甘い!大甘だよ!BISのダンナは。そんなかすり傷なんか『ヒーリング』かけなくても、ツバつけときゃ治るやん!」
シップはその言葉を黙殺した。
「もう大丈夫だよ、テイマさん」
フラウは額に手を当てて、傷めた箇所がすっかり癒えたことを確認すると、顔をほころばせた。
「BISさん、ありがとう!」
「癒しはビショップの本懐ですから」
シップもまた、少女に笑みを返した。
「その本懐を、こちらにもお願いします。バイトさんが噛まれたんで」
ナイトの言葉にシップは苦笑した。
 

 

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