【リプレイ風小説 第1話 魔術師達の饗宴】

 

ACT.7 フェニックスの羽


  ウィザードには移動の手段として『テレポーテーション』を使う者が多い。
『テレポーテーション』は視線が通る範囲ならば杖のひと振りで一瞬に移動することができる術である。便利なようであるが制約も多い。障害物を越えて移動することはできないし、『記憶』していたところに『跳ぶ』ように遠くへ移動することもできない。近距離限定なのだ。それでも『テレポーテーション』で移動するウィザードが多いのはこの近距離の移動を繰り返し行うと自分の脚で走るよりもずっと速く移動できるからだ。
もっとも速く移動するには多少の慣れが必要ではあるが。
8人のウィザードもほとんどの者が移動手段として『テレポーテーション』を使っていた。唯一、サイだけが全く『テレポーテーション』を使わず己が脚のみで移動していた。
サイにはポリシーがあった。
「男子たるものしっかりと地に脚がついていなければならない」
このポリシーの下にサイは『テレポーテーション』による移動を潔しとしなかったのだ。
これが仇になろうとは思いもよらなかった。
『秘密ダンジョン』の探索も終盤まで来ていた。9体目のホーンドを倒し次の魔物の群れを探して移動していたときである。そこは一見したところなんの変哲もない通路であった。今まで通ってきた坑道との差はなかった。強いて違いを述べるならばその通路は平ら過ぎると言えなくもなかった。
先陣を行く3人の『チリWIZ』が『テレポーテーション』で通過し、その後をサイが走りぬけようとすると、サイの足元でカチリと小さな機械音がした。次の瞬間、サイの真上の天井が轟音とともに落下した。グシャリと何かがつぶれる音がした。
一瞬にして辺りには土煙が舞い上がり全く視界が効かない状態になった。その土煙の中からキリキリいう歯車が回るような音が聞こえた。
土煙がおさまり視界が戻ったころには轟音とともに落下したはずの天井はすっかり元通りになっていた。違いと言えば通路につぶれたウィザードが転がっているだけであった。
「面目ない。古典的な罠にひっかかってしまいました」
『死』んだウィザードは言った。
「仕方ないですよ。丈夫な戦士なら耐えられるかも知れないけれど」
アインの言うとおり先頭に立って魔物と渡り合う戦士ならば多少の罠にもビクともしない強靭さを持ち合わせているだろうが、知識が信条のウィザードは、体力に劣るのが常である。先頭に立つ『チリWIZ』にしても「やられる前にやる」或いは「肉を切らせて骨を断つ」戦法で、戦士ほどの強靭さは持ち合わせていないものなのだ。
「今、『生き返』らせる」
そういうとRRは『フェニックスの羽』を取り出した。
炎の色をした赤い羽根は、また炎と同じようにゆらゆらと揺れていた。
RRは『死』んだサイの左胸、丁度心臓がある上に『フェニックスの羽』を突き立てた。
一瞬、羽は眩く光ったかと思うと次の瞬間には黒く燃えつきていた。代わりに天井に押しつぶされて『死』んだサイの体に生気が戻っていた。
「かたじけない」
ふらつきながら立ち上がったサイの足元で、またカチリと言う機械音がした。

アクシデントにより『フェニックスの羽』を2つ失ったものの、ここまでの行程は順調と言えた。
11体目のホーンドに対しても8人は落ち着いて対応した。サイの『メテオ』に最後のホーンドが燃え尽きたのと同時に、大きな地鳴りが坑道全体に響き渡った。
「先程通り過ぎたあたりからですな」
「え?」
「通路に大穴が空いたとこがありましたな。今の音はその辺りから聞こえたようですな」
「なるほど」
サイの言うとおり、一行は通路いっぱいの大きさに底が見えないくらい深い穴がぽっかりと空いている脇を通ったのであった。
「戻ろう」
8人は踵を返して来た道を戻った。
そこには確かに大きな穴があった。先程通り過ぎたときには確かに大穴が行く手を阻んでいた。しかし引き返して来た今そこに穴はなく、穴があった場所には固く冷たい地面が横たわっていた。穴が無くなったことにより新たな通路が出来上がっていた。
「ここだけ地面の色が違いますな」
「ホーンドを全滅させたんで、やっと財宝のありかに続く道が開かれたってわけだ」
「そして、この先に最強の魔物『鉱山の悪霊』も潜んでいる。奥に進む前に体制を整えよう。支援君は皆に『支援』をかけなおして。他の者は体力と『心の力』の回復を」
RRの言葉に従いアインは皆に『支援魔法』をかけ、他の者は傷を癒し『心の力』の回復に努めた。
アインが最後にRRに『ヘイスト』をかけ終えるとRRと目が合った。アインは、無言で小さく頷いた。RRはひとりひとり全員と目を合わせ、全員の準備が完了したことを確認した。
「よし、行こう」
RRの掛け声に全員が大きく頷いて応えた。
 

 

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