朝。きっと、目が覚める前からずっとずっと心が躍ってたと思う。
なんたって私はこの日が来るのを何ヶ月も前から楽しみにしていた。
いつもより早起きした朝は、とても清々しい。
今日は晴天。晴天なんて珍しくないのに、今日という日が晴天というだけでも凄く嬉しい。
小鳥の囀りは聞こえてはこないが、今日は車の騒音でさえ気持ちよく聞こえる。
去年までは、今日という日がこんなにも特別な日だとは思わなかった。

今日は私の恋人の誕生日。
はっきり言って、恋人なんて始めて出来たものだから何をどう祝えばいいのかわからなかった。
だけど、色々な友人に聞きまくって沢山助言をもらったから…多分、受け取ってはくれるよね…?
ていうか、受け取ってもらえなかったときなんて考えたくないけど。
いつもより少し、いや大分早い登校はきっと私しかいないと思っていた。思っていたの。
しかし、それは学校に着いた途端、見事に崩れ去った。

「……………。」

予想してなかったわけではないの。
そう。頭の片隅では、そうなるんじゃないかって思ってた。
だけど、私の頭って都合のいいことしか考えることができなくて、忘れていた。
私の彼が、跡部景吾だということを。
彼は頭もよく、容姿もいい。おまけに金持ちでカリスマ性もあって……正直、モテないわけがない。
なのに。私はそのことをすっかり考えずにこの日を楽しみに待っていた。
次々と手に可愛い袋を持った他校の女子が校門に入っていくのを横目で見ながら私は落ち込んでいた。
聞こえてくる黄色い声が、……テニスコートが彼の誕生日を祝う女の子達でいっぱいなのが校門前からでも分かる。
一体、彼を好いている女の子はどれぐらいいるのだろう。そして、どれぐらいのプレゼントをもらうのだろう。
図りきれない数に違いないのは確かであって、そして、今日一日中彼の周りには女の子がいるということもまた事実になるだろう。
その光景が目に浮かぶのが嫌で、私はテニスコートに行くはずだった足を止めてすぐに下駄箱に向かった。

(プレゼント…持ってきたんだけどな…。)

何日もかけて選んだプレゼント。
彼はほしいものは全て自分で手に入れてしまう人だから、ほしいものなんてないかもしれない。
それでも、一生懸命彼が喜んでくれるようなものを選んだ。
いつも彼に私のセンスの悪さを指摘されるが、……これだけは念には念を重ねていいものを選んだつもり。
私にとって、かなりの出費だった。勿論、交通費も兼ねて。
今まで誰かの誕生日にこんなにも時間をかけて選んだことがなかった。
なのに、………。

「やーめた。」

こんなこと考えるのは私らしくないよね。
それに、彼を祝ってくれる人がこんなにも居るんだから、彼女として幸せじゃないか。
そう自分に言い聞かせて、自分の教室に入った。
そして、いつも通り授業を受けていつも通りの学校生活を送った。
唯一、いつも通りではないのは彼に一度もあってないということ。

「なー。」

放課後。帰り支度をしていると彼と同じ部活のクラスメイト…芥川が話しかけてきた。

「ん、何?」

「おめえ、それでいいのか?」

主語がないのは芥川のいつものクセ。
それでも分かる。芥川が指していること。

「いいってことはないけど……。」

ついいつも通り過ごしていたつもりが、彼を避けて一日をすごしてしまった。
…きっと、彼に近づくにつれいつも通りの日常が過ごせるとは思えないから。
ずっと楽しみにしていた彼の誕生日だもん。
きっと、いつも通り過ごすなんて無理。彼を見ただけでいつも通りではなくなる。
でも。それでも私がいつも通りに過ごしたかったのはきっと朝の出来事が原因。
自分に平常心を求め、言い聞かせていたのだ。彼の誕生日にこんな気持ちでいてはいけないと。

「渡すんだろ、それ。」

それ…と芥川が指したのは私の机にかけてある学校鞄とは違う綺麗な紙袋。

「…………。」

自分の中の何かが嫌で、ずっと考えないようにしていた、紙袋のこと。
指摘された私は何も言えないでいる。
何ヶ月前から今朝までは渡す気でいた。
でも、今は渡したいのと渡したくないという気持ちが交差してなんとも言えない。

「…………芥川、部活遅れるよ。」

時計の針はもうほとんどの部活の開始時間をさしていた。
時計の針が何時をさしていてもいい。ただ、話を逸らしたかった。

「……おめえ、わけわかんねえ。」

「芥川に言われたくない。」

彼はムとしながらも部活に遅れてしまうことに危機感を感じたのか興味がなくなった私の相手から逃れるためか、すぐに教室を出て行った。

(私だって、自分がわけわかんないよ…。)

ため息をついて、身支度を済ませて教室を出た。

せっかく一生懸命選んだのだから、せめて渡すぐらいはしたい。
でも、嫌。何が嫌って彼の周りにいる女の子を見るのが。
そんなの我侭だってわかってる。わかってるけど、私は現実から目を逸らしたくて結果、今日一日彼を避けてしまった。
だけど、これでいい。嫉妬した私が彼に言う言葉なんてきっと可愛くないものでしかないから。
そこでケンカするより断然マシだ。
それに……今日は彼が生まれた日だもの。
こんな醜い感情でいっぱいになりたくない。

…………けど、プレゼントは?どうするの?せっかく選んだのに。

自分の中で問いかける自分がいる。
そうだよ。渡したいよ。渡したいけど、彼に会いたくない……。

(自分勝手……。)

煮え切らない思いに私はモヤモヤする。
そんな自分が嫌で、頭をブンブンふった。
すると、いつの間にか下駄箱で靴を履き替え校門を出ていた。

(……学校、出ちゃった。)

結局、渡せないままか。
落胆する自分がいて、安堵のため息を漏らす自分もいる。
どっちなんだ私。はっきりしなさいよ。
そう思って、顔を上げた先に見えたもの。そして目の前を通り過ぎたもの。
それに目がとまった。

(………そうだ。)

私は決意をして、ある場所に向かった。





家に着いた途端、制服のままベッドにダイブ。
色々考えすぎたせいで、頭がいたい。

「……疲れた。」

すぐに帰宅したくなくて、自分の好きなお店を沢山回った。
でも、全然気が晴れなくて気がついたらため息を吐いている自分に苦笑した。
そして、どこを回っても落ち着かない自分に疲れた。
ふと時計をみたら7時半。
彼が部活をして自主トレして女の子達の用事を済まして帰宅するのは8時は完全にすぎる。
連絡があるとしたら、まだまだ後だろう。

(とりあえず、いつも通り一日を過ごすかな…。)

そう思い、着替えようと服に手をかけようとしたときだった。
メールの着信音が鳴った。この着信音は彼ではない。
だけど、携帯から音が鳴ったという事実に異常にドキドキした。
着替えてからメール見ようかと再び着替え始めると、また携帯が鳴った。

「……………。」

着替える手を止め、私はしばらく携帯の方をみた。
すると、また携帯が鳴った。勿論、彼の着信ではない。
彼以外は無造作に決めた着信音にしたから、今の3つのメールが同じ人物だとは決め付けられない。
イタメだろうか?3件も続けて?チェンメだろうか?いや、ない。
チェンメは好きじゃないと相手にアドレスを教えるときにいった。
着替えるのをやめて、不思議に思い携帯を手にとって確認をすると、3件とも違う人間からだ。
その3人は彼の部活仲間。内容はとても批判的なものだった。
どうしようかな、と返事を出すのを迷っているといきなり電話着信がなった。
吃驚して思わず電話を取ってしまったが、誰だか確認しないままとってしまった。

「………………も、もしもし……?」

『俺だ。』

「!」

景吾からの電話だった。

『変なもの送ってんじゃねえよ、ばーか。』

「へ、変なものって……!」

変なものとは、きっと私が景吾宅に送ったプレゼントのことだろう。
しかし、人が一生懸命選んだプレゼントを変なものなんて言うのは失礼すぎない?
せめて、文句つけるならお礼を言ってからでしょ!
此処で私が怒ったら本末転倒。
今日は、今日は怒らない。我慢だ、自分。

「………景吾さんのお気に召さなかったようで大変失礼しました。」

『渡すなら、直接渡せ。』

「……景吾さんは大変忙しそうでしたので。」

『直接なら、お前ごと貰ってやるよ。』

「……………!」

一瞬携帯を落としそうになったけど、そんなあからさまな動揺は見せられない。
顔が熱くなるのが分かる。でも、絶対そんなの知られたくない。
なんか、わかんないけど……凄く負けてる気分。
何も言えずに、黙っていると景吾が急かすように言った。

『……気にいらねえから、今すぐ降りて来い。』

「………は?」

今、何って。え、降りて来いって…まさか。え?

「待って。来てるの?!」

『あぁ。』

「それを早く言いなさいよ、馬鹿……!」

さっきまで暢気に話してた自分が憎い。
ずっと外に景吾がいたまま私は何を暢気に話してたんだ…!
慌てて自室を出て、階段を何段飛ばしか分からないけどとにかく凄い勢いで玄関を出た。
家の表札前に携帯を持ったまま壁に寄りかかっている景吾。

「………、なんで。」

「お前が考えてることなんてお見通しなんだよ、アホ。」

馬鹿の次は阿呆ですか。
私はどれくらい貴方に貶されれば気が済むんでしょうか。

「避けてんじゃねえよ。」

その一言で、自分がどれぐらい景吾の手の中にあるのかわかった。
ああ、貴方には全てお見通しだ…。
一生懸命プレゼントを選んだこと。嫉妬したこと。
そして、私がどれぐらい景吾のこと好きかってこと。

「…………だって、景吾……束縛好きじゃないくせに。」

貴方は自由な人だ。
今日改めて嫉妬深いと気づいた私。
そんな私は貴方を縛り付けてはいけないでしょう?

「俺の女はお前だろ。堂々としてろ、馬鹿。」

「……ばかっていうなあ……っ」

「事実だろ。ない頭で余計なこと考えてる暇があんなら、誕生日ぐらい祝え。」

「…嫉妬しすぎて喧嘩するかも、だよ……っ?」

「ばーか。本望だろ。」

そういって景吾は私を抱きしめてくれた。

どうしよう。
どうしてくれよう。
今日はあなたの誕生日なのに、私が嬉しくなるばかり。
ありがとう。本当にありがとう。
生まれてきてくれて。今まで生きてくれていて。
私に出逢ってくれて。嬉しいことを言ってくれて。
抱きしめてくれて。愛してくれて。
此処にいてくれて、ありがとう。




「……景吾。」

「あぁん?」

「お誕生日おめでとう…。」

「…あぁ。」


素っ気無い返事をしながら、景吾は私に口付けをした。












 : 後書 :
ふぎゃ。名前変換一切なし!
なんか、跡部様の誕生日夢じゃない気がしてならぬぇ。
越前さんの誕生日夢もこんな感じじゃなかったか、私?
まあ、いいや。とにかく、跡部さん何度目かの中三の誕生日おめでとうございます。
……一日遅れたけど。