
セピア色になったあの時の残像のかけらが
時としてあなたの脳裏を駆け抜けることはありませんか。
枝がしなるほどのたくさんの花をつけた桜舞う千鳥ヶ淵のお堀とか
屋台が遠くまで続く住吉大社の夏祭りで賑う人々の群れとか
黄金色に輝く銀杏の葉が舞い落ちる神宮外苑の並木道とか
吹雪のかなたに見える函館のギリシャ正教会の鐘楼とか
何十年も昔からある景色に切ないときめきを覚えたとき
どうか由妃のことを思い描いてみてください。
そのとき由妃はあなたの手を取って
ノスタルジアの遙かなるトンネルへあなたをいざないます。
逆回転にせわしく回る大時計の針に
吹き飛ばされないようにしっかりつかまりながら
遠い未来の宇宙船のように
大時計そのものも
七色のトンネルのかなたに猛スピードで飛びぬけていくの。
気がついてみると
私たちは何者かに投げ出されたみたい。
あなたも由妃もその視界にすっかり色を失って
実家の押入れの奥深くにある
かつての8ミリ映写機でとったフィルムのような
ずいぶんと色あせているのに
なぜだかとっても光輝く
あの時の懐かしい世界が目の前に広がるの。
さあ、由妃の髪にいつものリボンを結いてください。
由妃も白いソックスをもう一度膝まで上げるわ。
遠い昔にあなたが残してきたシュプールをたどって
今から由妃と手をつないで一緒に歩いていきましょう。
忙しい間に忘れてしまった私たちの原点を探しに。