抱きしめたい

       〜La forme d’amour(愛のかたち)〜オスカルVer.

                              MYUさま作









     〜抱きしめたい〜








     初めて思った。「抱きしめたい」と・・・。


     今、わたしのために傷つき横たわっているこの男を抱きしめたい。


     ことばはなくとも、わたしの“想い”を抱きしめて伝えたい。








     幼い頃は何の惑いもなく当たり前のように抱きしめあっていた。


     嬉しい時、悲しい時、苦しい時、悔しい時・・・。その思いを分かち合うために。








          








     パリで暴徒に襲撃された。


     アンドレが身体を張って守ってくれたのと、偶然通りかかったフェルゼンに助け


     られたおかげで、わたしのケガはさほど大きくはなかった。


     しかし、アンドレはわたしをかばい重傷を負ってしまった。








     ーアンドレを失うかもしれないー


     底知れない恐怖が襲ってきた。アンドレを助けなくては、なんとしてでも・・・。


     それが「私のアンドレ」ということばになったのだろうか?








     医師の手当てが終わり、命に別状がないとわかるまで生きた心地がしなかった。


     アンドレはわたしのために傷ついている。心も身体も・・・。


     もうわたしのために傷ついてほしくはないのに。


     誰よりも彼の幸せを望んでいるのに・・・!


     そう思うと、いてもたってもいられなくなり、ジェローデルを呼び出していた。








     ー愛とは愛しい人の不幸せを望まぬものー


     何かで知った“愛”のひとつの意味。








    「−彼を愛しているのですか?−」


     虚を突かれた。


     アンドレを愛しているのかどうかわからない。


     彼に対する“想い”が男女の愛なのかは・・・。


     ただ、失いたくないかけがえのない存在であること、彼に幸せになってもらいた


     いということは確かなことだった。


     彼が不幸せになるのなら、わたしもまたこの世でもっとも不幸せな人間になって


     しまう・・・。








    「わたしのただひとつの愛の証です・・・。身を引きましょう・・・。」


     ジェローデルはそう言って去っていった。


     ー身を引くことがただひとつの愛の証ー


     人間であればこそ、そんな愛もあったのだとは・・・。








     愛にかたちがあるのなら、わたしの愛はどんなかたちだろう?








          








     ずっと振り返らずに生きてきた。


     自分の居場所を探し、ただひたすら走り続けてきた。


     男でもなく、女としても生きられない自分には愛は無縁のものであると思ってきた。








     堪えることしか許されなかった初めての恋。


     その恋の終焉に知った幼馴染の狂おしいまでの愛。


     他の男のものになるくらいなら自分を殺してしまいたいというほどの深く激しい愛。


     理不尽な言動の裏に隠された両親の子に対する限りない愛。


     そして・・・わが身を想い、身を引く愛・・・。


     わたしの周りにはなんと愛情が溢れているのだろう。


     そのひとつひとつに“愛のかたち”がある。








     わたしのアンドレに対する“想い”は何なのだろう?








     幼い頃は“大好きな親友”だった。肉親に近い愛情・・・。


     変わらないと思っていた。ずっと続くものだと・・・。


     一番近く魂をよせ合い、すべてをわかちあってきた。


     おまえへの“思い”は友情、信頼、築き上げてきた絆だと思ってきた。


     おまえの言うことなら無条件で受け入れられた。


     これもひとつの“愛のかたち”なのだろうか?








     でも今は・・・。


     おまえがいなくなったら、わたしは抜けがらになってしまう。


     おまえがいなければ何もできない。


     おまえがわたしにとって一番大切な人間であることに気付いてしまった。








          








     〜抱きしめたい〜








     ただ抱きしめておまえの存在を確かめたい。


     いつも励まし続けてくれたその微笑を失わないために・・・。


     おまえがいたから、今のわたしがある。


     光あるところに影が存在するように、静かにわたしに寄り添っていてくれたから・・・。


     おまえがいなければわたしはわたしでなくなる。


     わたしはおまえによって生かされている・・・。


     おまえがわたしの居場所なのだ。








          








     アンドレに会いたい。


     彼の寝ている部屋へ向かった。


     ようやっと峠を越えたと医師は言った。


     まだ彼の意識は戻らない・・・。


     土気色をした顔、酷い傷・・・。時折苦しそうにうなされている。



    「アンドレ」



     もう一度呼んでみる。



    「アンドレ・・・」



     涙が溢れてくる。胸が締め付けられるようだ。


     誰よりも幸せになってほしい人なのに。


     おまえが不幸せになるのなら、わたしもまたこの世でもっとも不幸せな人間に


     なってしまうのに・・・。








     この“想い”はすでに“友情”・“肉親の情”・“信頼”ではない。


     もっと、こう何かちがう想い・・・。これが“愛”というものなのか・・・?


     まだわからない。この“想い”が愛であるかどうかは・・・。


     いや、わからないフリをしているだけかもしれない。自分の心にふたをして・・・。


     あと少し・・・。あと少しだけ時間がほしい。


     この“想い”が何であるかを見つけるまで。


     それがたとえつらいことでも、今度こそは逃げずに。


     己の心を鏡に映して、すべてを見つめて。


     その時こそ、わたしは“愛”が何であるかを知るだろう。


     わたしの“想い”がどんな“愛のかたち”であるかを。












     FIN







         
         











MYU様へのメールはこちらから。→





素材をお借りしたサイト様。